Dimension 1
全固体型リチウムイオン電池
リチウムイオン電池は、可燃性があることから、その安全性も重要な課題となっており、不燃性の電解質、全固体化などの研究開発が活発に進められています。
そして、全固体型リチウムイオン電池の場合、電池容量も大きくなり、高速充放電も可能になると言われています。
これらの観点から、当社では、酸化物ガーネット型の固体電解質である Li7La3Zr2O12(LLZO)と、不燃性の電解質であるイオン液体系の電解液の組み合わせを電解質として用い、正極材料にスピネル高電圧型である LiNi0.5Mn1.5O4 正極材料、そして、負極材料に Li5Ti4O12 を用いて、準全固体型リチウムイオン電池を開発いたしました。
当社では、これら全ての電極、電解質材料を自社内で合成しています。現在の電池容量は、正極材料に対して約 40mAh / g と、やや低いものの(数十回の安定したサイクル特性は確認)、不燃性であり、高温でも使用可能であることなどは、安全性の観点からも大きな利点となっています。今後は、イオン液体を用いないタイプの、全固体型リチウムイオン電池や、さらなる電池容量の向上を目指してまいります。
Dimension 2
リチウムイオン電池用構造体
(MOF : Metal Organic Framework)由来電極
GSアライアンスでは、金属有機構造体(MOF:Metal Organic Framework)という超多孔性材料を、研究開発、製造販売しています。そこで、この MOF を原料とした電池用電極材料の研究開発も行っています。MOF は、金属カチオンと、それを架橋する多座配位子によって構成される物質で、その特性は、細孔空間の形状、大きさ、および、化学的環境により自在に変わります。そして、ナノメートル単位で、厳密に構造が制御できます。また、金属イオンと有機リガンドの組み合わせは非常に多く、既に数万種類以上の MOF が報告されています。
MOF を原料として作った電極材料を基に作成した、リチウムイオン電池の電気化学的特性も既に検証段階に入っており、500 - 600 mAh/g の容量で、充放電50回のサイクル後も、約85%以上の電池容量が維持されていることも確認されています。
当社では、MOF を自社で合成しておりますので、今後はさらに、異なる種類の MOF の開発、電極の作成方法の最適化なども行い、より電池容量が大きく、サイクル特性の優れた、MOF ベースのリチウムイオン電池用材料の開発、製造を追求してまいります。
Dimension 3
リチウムイオン電池用シリコン系電極材料
リチウムイオン電池の高容量化に向け、負極の活性化物質に一酸化ケイ素を用いることも検討されています。ケイ素系の材料は、充放電に伴うリチウムイオンの取り込みと放出により、大きな体積変化が生じて、電池容量が劣化することが問題視されています。しかしながら、一酸化シリコンの理論容量は、
約2,000mAh / g とされており、非常に魅力的な材料です。当社においては、
一酸化シリコンの塗布用インクに改良を加え、0.1C の充放電条件下で、初期的に約1800mAh / g の電池容量を示しています。また、数十サイクル後も、電池容量の低下が10%以下に収まっています。
現在、より大電流下での容量と劣化特性の評価なども行い、さらなる改良を続けております。
Dimension 4
リチウム硫黄電池
リチウム硫黄電池は、正極活物質に硫黄、負極にリチウム金属を用いる蓄電池で、その充放電は、硫黄とリチウムの酸化還元反応で行われます。放電時は、負極でリチウムが酸化、溶解し、正極で硫黄が段階的に還元され、反応中間体である、複数種のリチウムポリスルフィドを経て、硫化リチウムに還元されます。
一方で、充電時には、負極でリチウムイオンが、リチウム金属に還元、析出し、正極では、硫化リチウムが硫黄へ酸化されます。
電解質としては、リチウムイオン電池と同様に、有機溶媒を用いた電解液をはじめ、イオン液体などが検討されています。エネルギー密度に一定以上の高さがあることが優位点で、硫黄正極の理論容量は 1672 mAh/g であり、リチウムイオン電池の、酸化物系正極材料の容量である 100 – 250 mAh/g を大きく上回ります。その電圧は、リチウムイオン電池より低いものの、理論エネルギー密度は 2500 Wh/kgに達します。現在は、性能の良いリチウムイオン電池の容量が 200 Wh/kg 程度ですので、今後が期待される電池です。
また、正極の硫黄は、資源的に豊富で、安価に調達できますので、コスト面、資源の面でも有利です。しかしながら、充放電に伴い、硫黄正極の分解が進み、体積変化も大きくなり、急激に容量が低下してしまうことは問題点でもあります。
現在、当社では、硫黄正極に対して初期的に約1200 mAh/g の電池容量を有していますが、まだサイクル特性が十分とは言えないため、電池容量、サイクル特性の向上も含め、今後、さらなる改良を継続してまいります。
Dimension 5
リチウム過剰型正極
リチウムイオン電池の正極活物質は、電池性能の面からみて、高電位、高容量、優れた可逆性、優れた充放電速度、化学的安定性、熱的安定性、高密度などが要求されます。また、実用量産化を考慮した場合、低コスト、再現性、収率の良好な合成法、良好な取扱性なども必要となってきます。電池性能の向上のために、様々な酸化物系化合物が検討されてきましたが、近年においては、主に層状岩塩型構造、スピネル型構造、および、オリビン型構造の遷移金属酸化物と、これらに関連する化合物について検討されています。
これらの化合物は、平均電位 3~4V、理論容量 170~280mAh/g ですが、実測値は 100~200mAh/g 程度となります。また、炭素系負極と組み合わせた、市販の現在のリチウムイオン電池のエネルギー密度は、最も良い数字でも、
約250 Wh/kg あたりに留まっています。
リチウム過剰系材料は、その材料における、遷移金属に対するリチウムのモル比が ”1” よりも大きく、理論容量も 280~320mAh/g と高く、今後が期待されている正極材料です。当社では、初期的に約250 mAh/g を示すリチウム過剰型正極材料が既に合成でき始めており、今後がますます期待されています。
Dimension 6
アルミニウムイオン電池 / アルミニウム空気電池
現在、二次電池は、リチウム金属を電極資源として用いるのが主流ですが、需要の拡大や、リチウム資源の偏在、埋蔵量などにより、長期的な安定供給が懸念されるため、各国でリチウムに代わる代替元素を使用した充電池の開発が進められています。
アルミニウムイオン電池は、正極、負極間でのアルミニウムイオンの移動を利用して、充放電を行う二次電池です。地球上のアルミニウム資源は、非常に豊富ですので、アルミニウムを用いた二次電池の実用化できれば、現行のリチウムイオン電池よりも低コストな、エネルギー貯蔵が可能になると考えられています。
電解液にも、可燃性ではないものが利用できますので、安全性も高まります。
また、電解液の種類によっては、250-300℃程度の温度まで使用できる可能性があります。
当社では、炭素系の正極材料に対して、約50mAh/g の電池容量を有するアルミニウムイオン電池の試作品(ラミネートセル)ができており、サイクル特性も約50回でも劣化が少なく、極めて安定しています。
一方で、アルミニウム空気電池の研究開発も進めています。アルミニウム空気電池は、電池容量が最大と言われるリチウム空気電池についで、2番目に大きいと言われています。また、アルミニウム空気電池の二次電池化も検討していますが、電解液中のアルミニウム金属への還元反応が確認できていないため、二次電池化は、現在のところ、まだ確定していない状況です。
アルミニウムイオン電池に関しては、大阪大学との共同研究開発も進めており、実用化を目指して研究開発を続けています。
Dimension 7
亜鉛空気二次電池
金属空気電池は、正極として空気中の酸素、負極として金属を用いる電池のことです。電池外部の空気中から、酸素を内部に取り込んで使用するため、正極活物質を電池内に組み込む必要がなく、軽量化が可能となりなす。その結果、他の電池と比較して、重量、体積の両方の面で有利になります。
空気電池の、負極に応用できる金属としては、亜鉛、アルミニウム、マグネシウム、リチウム、シリコン、鉄などがあります。リチウムを負極として利用するリチウム空気電池は、電池の中では、最大の容量を有すると言われています。
一方で、亜鉛空気電池は歴史が古く、資源としても世界的に豊富に存在していることから、リチウムイオン電池よりも安価に製造できる点が期待されています。また、理論的には、リチウムイオン電池の、5倍以上の電池容量であることも魅力的です。既に一、次電池として、補聴器や一部のフィルムカメラ、鉄道の信号機器などに既に用いられています。しかしながら、空気亜鉛電池は充放電を繰り返すと、亜鉛がデンドライト状に析出してしまうため、二次電池として維持することが困難な点が問題として残ります。また、充放電劣化を抑える触媒は、白金などの貴金属のため、大変高価であり、二次電池としての利用には適さないという特徴があります。
当社では、京都大学との共同研究開発も含め、この白金代替の材料や、電解液の調整などの研究開発を行い、安価で安定した亜鉛空気二次電池の実用化を目指しています。
Dimension 8
固体酸化物型燃料電池 (SOFC : Solid Oxide Fuel Cell)
燃料電池とは、燃料が持つ化学エネルギーを、直接電気と熱に変換する装置です。燃料電池には、主に4種類にタイプがあり、リン酸形(PAFC)、溶融炭酸塩形(MCFC)、固体高分子形(PEFC)、固体酸化物形(SOFC)となっています。また、燃料電池には、代表的な大気汚染物質である、窒素酸化物と硫黄酸化物をほとんど排出しない、という大きな利点もあります。燃料電池は、イオンが電解質中を通過、移動することにより、電気を発生させます。PAFC や PEFC では、水素イオンが電解質を通過して、陰極で酸素と化合し水になるため、燃料は水素に限定されます。
一方、SOFC では、空気中の酸素が陰極でイオン化し、電解質を通過するため、一酸化炭素も、水素と共に燃料として利用できます。現在、気体もしくは液体の水素を、簡易的に利用可能な場所はあまりなく、これが、燃料電池の普及の妨げになっています。よって、現状では、天然ガスやプロパンなどを改質して使用することが、現実的な対策と思われます。
SOFC は、一酸化炭素を直接利用できますので、PEFC のように、一酸化炭素を極微量まで減少させる処理過程が必要なく、システムが簡素になるという利点もあります。また、SOFC は、高品位な排熱も同時に回収でき、エネルギーとして使用できることも大きなメリットのひとつです。
当社では、この SOFC の正極、負極、固体電解質とも、自社内で研究開発しています。SOFC の材料は、概して酸化物であり、それらの合成に関する豊富な経験、実績も有しています。SOFC の材料として、合成から印刷用インク化、ペースト化まで、全てを自社内で行うことが可能です。
また、SOFC の小型セルの検討も既に始めています。
Dimension 9
固体高分子型燃料電池 (PEFC : Polymer Electrolyte Fuel Cell)
燃料電池は、酸素と水素を使用することから、反応が進むと、生成物は水だけであり、非常にクリーンな発電装置です。前述した SOFC に比べ、作動温度が低い固体高分子形燃料電池 (PEFC = Polymer Electrolyte Fuel Cell)は、主に家庭用や、自動車用への広範囲な適用の可能性があり、注目されています。
PEFC の電解質には、フッ素系のカチオン交換膜を使う場合が多く、厚さは20~50 µm 程度で、燃料極側には、白金、または、白金ルテニウムの合金触媒を炭素に担持した電極を、この膜に密着させ、空気極側は白金を炭素に担持した電極を密着させる構造となっています。膜と電極を一体化させたものを、
MEA(Membrane Electrode Assembly)と呼びます。燃料電池に用いられる、これらの貴金属触媒のサイズは、数ナノメータに調整し、比表面積をできるだけ大きくすることにより、使用量を低減することが検討されています。
PEFC が、近年、大きな注目を集めている理由の一つは、その大きな出力密度です。出力密度が 1 kW / L を越えると、ガソリンエンジンに十分対抗できることから、環境負荷の低い高効率の駆動源として、また、自動車用の燃料電池としても研究開発や、一部では実用化が、進んでいます。さらなるコストダウン、小型化が可能になれば、家庭用の電源としての用途も、一層進むのではないかと考えられます。
当社では、従来、電極に用いられている白金、貴金属の部分を、金属有機構造体由来の材料や、カーボンアロイ系のような材料を用いて、置き換える研究開発を、京都大学との共同研究開発も含め、進めています。これらの貴金属は、コストの高さだけではなく、資源の面からも懸念されていますので、この部分を置き換えることは大きな利点となります。
Dimension 10
ペロブスカイト太陽電池 / 量子ドット太陽電池
太陽電池とは、太陽の光エネルギーを直接電気に変換するデバイスです。その種類は、原料として使われる半導体によって様々ですが、現在量産されている太陽電池の多くは、シリコン系太陽電池と、化合物系太陽電池と呼ばれるタイプに分類されます。これらの太陽電池は、丈夫で壊れにくく、光―エネルギー変換効率も高いのですが、世界に大きく普及しない理由は、材料や製造コストが高いという問題点があるからです。
そこで、新しい太陽電池として期待を寄せられているのが、ペロブスカイト太陽電池や、量子ドット太陽電池と呼ばれる、次世代型太陽電池です。
ペロブスカイト太陽電池は、ペロブスカイト(NH3CH3PbI3)と呼ばれる、結晶構造の材料を用いた、新しいタイプの太陽電池であり、最先端の研究では、シリコン系太陽電池や、化合物系太陽電池にも匹敵する、高い変換効率を達成し始めています。
また、シリコン型や、化合物型の太陽電池より、安価になりえることも大きな魅力です。低温で製造できるため、基盤にプラスチックを用いることができます。このことにより、自在に曲げることのできる、フレキシブルな太陽電池を作ることも可能です。これまで設置が困難だった場所に、電源として用いることができる可能性もあるなど、大きな期待が持てます。
現在主流の、シリコン系材料を利用した単接合型太陽電池では、太陽光のうち、バンドギャップ以上のエネルギーを有する光子は、吸収した後にエネルギーが熱に変換され、バンドギャップ以下のエネルギーを有する光子は、透過して光電変換ができません。これが、エネルギー変換効率を制限する一因となっています。
そこで、さらなる高エネルギー効率を実現する、次世代太陽電池の1つとして注目されているのが、量子ドット太陽電池です。量子ドット中に、電子を閉じ込めることで生じる、量子サイズ効果などの量子効果により、従来の太陽電池では吸収することのできなかった、波長の光や、高エネルギーの光を、有効に利用することで、変換効率を高めることが可能です。理論効率が75%に達し、従来の半導体を使用した太陽電池よりも、高効率化が可能であり、大きな期待が寄せられています。
GSアライアンスでは、これらの太陽電池に用いられる、電極材料、光増感材料、電解質材料などを合成する、研究開発、製造販売を行っています。